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VOICE【埼玉県】ハザードマップ策定目標を達成に導いた勉強会

2016.03.24

平成28年度に対象36市町村すべてで内水ハザードマップ」を策定するという目標を、計画より2年前倒しで達成した埼玉県の取り組みは、平成27年(第8回)国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」が授与されるなど高く評価されている。その取り組みの原動力となったのが、県主催の勉強会である。情報を提供するだけの“お勉強会”にとどまらず、“行動”に結びつけることができた要因は何だったのだろうか。勉強会を主催する同県都市整備部都市計画課を取材した。

 

埼玉県勉強会後

勉強会の会場は毎回ほぼ満員。みな熱心に耳を傾けている

 

“指導”ではなく“支援”が県の役割

 

非常に俗っぽい理解であるが、県と市町村との関係を“上下”と考えている人は少なくないのではないだろうか。その考え方で言うと、県主催の勉強会とは、つまりは県が市町村を“指導”するためのイベントである。であるならばなんとなく面白くなさそうな気もするのだが、何がどうなって内水ハザードマップ策定率100%という成果に結びついたのだろう。

取材するまで勝手な想像を膨らませていたのだが、その想像はいい意味で外れた。

公共下水道担当の石川淳氏は、県と市町村との関係をこう話してくれた。

 

埼玉県石川主査

石川淳 都市整備部都市計画課公共下水道担当主査

 

「県下には内水被害の発生しやすい地域が多く、そうした市町村は雨に関する情報を求めているのですが、雨と深く関連する事業のうち、自らが手掛けている下水道については市町村で情報を得られるとしても、やっていない河川については難しい。河川は県が管理していることもあり、都市計画課内にも河川経験者がけっこういます。だったら河川に関する情報を提供して、市町村の雨水対策を支援する。それが県の役割ではないでしょうか。市町村には、県をいいように使ってもらえればいいと思っています」(石川氏。以下同)

 

石川氏は“指導”ではなく“支援”という2文字を使う。その思いが、浸水対策に関する様々な取り組みの根底に根付く。

 

嫌われるほど粘り強く

 

内水ハザードマップ策定の取り組みは、平成24年度から始まった。浸水対策として雨水貯留施設などハード対策を進める一方、完成までのタイムラグを埋める形で2~3年で完成するソフト対策として県5ヵ年計画に位置づけられた。

内水ハザードマップは地域の特性を理解していなければ作れないうえ、自分で自分の命を守るために住民レベルで活用されてこそ意味があるもので、だからこそより地域に密着した市町村単位での策定が大前提となる。なぜ必要なのか、どうやって策定するのか。畳みかけるような頻度で勉強会を開催し、様々な情報を提供して市町村に理解を促した。

 

「勉強会そのものは平成24年6月の第1回を皮切りに、9月、11月、翌年5月の4回開きました。国の方を講師に呼んだのが1回、県が3回です。そのほか、策定の進捗を確認するためのヒアリングを3回、それ以外にも必要に応じて個別ヒアリングを繰り返しました。相当粘り強くやりましたね。相当嫌われたと思いますよ(笑)」

 

さいたま市内水ハザードマップ</a>

さいたま市が作成した内水ハザードマップhttp://www.city.saitama.jp/001/006/003/002/001/p015291.html(さいたま市HP)

 

県と市町村で立場は違うが、昨今の雨の降り方の激甚化で浸水対策の必要性を感じていたこともあるのだろう。以前から汚水処理に関する勉強会は実施していたものの雨水のテーマは手薄だったというが、“しつこい”働き掛けが県下の全44市町村による内水ハザードマップ策定という形に結実した。

「嫌われる勇気」(岸見一郎・古賀史健著、ダイヤモンド社)という書籍が売れているが、石川氏の場合は嫌われる勇気とともに、面倒くさいことを丁寧にやり切る根気も併せ持っていたに違いない。

 

「これからの勉強会では、内水ハザードマップの活用もテーマにしたいと思っています。使っていただかないと意味がないのですが、平成27年9月度に防災訓練に使ったのが18市町村ですから、まだ活用がうまくいっているとは言えません。防災訓練では地震を想定することが多いですから。県内はもちろん、他の都道府県の取り組みでも、参考にできるような活用事例を紹介していきたいですね」

 

平成27年度の勉強会には、9割近くの市町村から下水道担当や河川担当、危機管理担当など120名ほどが参加した。これからの県の“しつこい”いや“粘り強い”働き掛けで、内水ハザードマップの魅力的な活用方法が見つかることに期待したい。それが他の自治体にとっての参考になることは間違いない。

 

県も市も一緒にやっていこう

 

勉強会の原動力となったのは、政令市となったさいたま市との二重行政解消のため、平成24年に県の河川砂防課とさいたま市の下水道部所が事業調整協議会を立ち上げたことだった。平成25年には川口市、越谷市、平成26年には11市が加わり、現在は14市それぞれと事業調整協議会を立ち上げ、効率的かつ効果的な浸水対策を議論している。

しかし、県は河川事業はやっているが、下水道については流域下水道は手掛けるものの雨水の下水道事業そのものはやっていない。市はその逆だ。そうなると互いが持っている情報が同一ではなく、異なった情報に基づいて議論を続けても統一見解に行きつくことは難しい。

そうした中、両者を“翻訳”する重要な存在となっているのが、石川氏らの県公共下水道担当である。

 

「県と市が対等に議論しているつもりですが、市の担当者からすると、例えば“これだけの雨水を河川に流したい”と思っていても言いにくいものだと思います。だから、市の担当者と日頃から付き合いのある我々が、両者の間の敷居を低くして、市の声が届きやすくなるように心掛けています」

 

越谷市内水ハザードマップ

越谷市が作成した内水ハザードマップhttp://www.city.koshigaya.saitama.jp/kurashi/dourokasen/kasenchisui/naisuihazardmap.html(越谷市HP)

 

雨は市町村の境界でとどめることができない。だからこそ、県だけの取り組みでも、自分の市町村のことだけを考えた対策でも効果が上がらない。そこが汚水対策より難しいところだろう。

 

「平成26年度は事業調整協議会への参加希望自治体を募集して11市に決まったのですが、正直なところ当初は“県で何かやってもらえるのだろう”“県が助けてくれるだろう”という雰囲気を感じることもありました。ですが、整備済みの護岸をさらに整備してほしいと市から要請があがるほど、河川で受け入れられる雨水量はほぼ限界に達しています。じゃあ、どうするのか。下水道でできること、つまり市町村でできることを考えざるをえないわけです。下水道では河川整備よりも短期間で雨水貯留施設を整備したり、その設置箇所を変更したり、機動的に対応することができますから。浸水の原因を明らかにして、下水道でできることを考える。そこをサポートしてきたつもりです。徐々に意識が変わってきていると感じます」

 

石川氏のことだ。きっと“しつこく”議論したのだろう。そうやって話を続けることが、県と市町村の本当の意味での“対等”と、浸水リスクの軽減につながっていくはずである。

石川氏の一言一言に込められた埼玉県の浸水対策にかける思いは、石川氏の上司である野崎高司主幹の一言に集約される。

 

「一緒にやっていこう」(野崎氏)

 

埼玉県野崎主幹

野崎高司 都市整備部都市計画課公共下水道担当主幹

 

「5か年計画‐安心・成長・自立自尊の埼玉へ‐」

平成24~28年度の5か年計画

さいたま減災プロジェクト

県民の自助・共助の防災、減災の取組を支援するため、株式会社ウェザーニューズと協定を締結して進めている