2016年3月28日

【広島市】球場下の雨水貯留池はいかにして実現したか

 


広島市下水道局 施設部 計画調整課
 小笹山 秀夫 課長補佐

 平成21年に完成した「新広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島、以下新球場)」は、広島市のランドマークの一つとして全国的な存在感を増している。
 新球場は、多くの広島市民に愛される広島東洋カープの本拠地として、また、全国の野球ファンを魅了する施設として知られるが、もう一つの大切な顔がある。「大州雨水貯留池」として広島の陸の玄関口であり都市機能が集積するJR広島駅周辺地区(大州地区)を雨から守る役割を果たしている。

球場移転先を注視

 大州地区は、北川に山地、残る三方は河川に囲まれ、かねてより豪雨に対する脆弱性を有していた。駅周辺には大規模な商業地区や地下街が形成され、浸水時の影響も大きく、抜本的な対策が必要となっていた。一方、周辺に空き用地はなく、広島市にとって当地区の浸水対策は長年の懸案事項だった。
 現在新球場が立地する旧JR貨物ヤード跡地は、新球場の建設予定地として候補に上がるものの、計画は定まらなかった。
 広島市下水道局では、長年の懸案事項だった大州地区の浸水対策を行うため、用地利用の動向を注視していた。
 

広島市下水道史に残る難計画

 平成17年7月、同跡地への新球場建設方針を市長が表明すると、下水道局は即座に動いた。仮にも雨水対策をしないまま球場が立地してしまえば、貨物ヤードが果たしていた土壌の浸透効果も損なわれ、浸水の危険性は一層高まってしまう。「タイミングを逃せば、大州地区の浸水対策はいつ出来るかわからない。局内一丸となって取り組んだプロジェクトだった」(小笹山補佐)。
 関係各方面に交渉に回り、貯留池施設は前進する。新球場建設と早期の浸水対策が実現出来る「一石二鳥」案は、用地費を下水道と折半するなど、新球場建設においても大きなメリットがあった。一方で、実現に向けて与えられたミッションは、広島市の下水道史上、稀に見る難計画となった。
 用地は軟弱地盤。新球場の本体工事着手の期限は決まっていながら、新球場の広さや方角、内部施設の基本計画が定まらない状況の中、貯留施設の計画を先行せざるを得なかった。与えられた期限は平成20年7月までの3カ年。その中で、計画、環境アセスメント、国の認可、国庫補助と単費予算の確保、竣工、全てを完結させることが条件となった。

施工期間は1年

 真っ先に当時の局幹部は計画を裏付けるため、国土交通省を訪れ幾多の調整を重ねた後、平成18年1月  施設の形状は、新球場の方角にとらわれない円形とし、建築物に支障とならぬよう、直径100メートル、高さ5.35メートルの円筒形の構造物とすることを決めた。さまざまな制限の中でも、従前能力(時間降雨量20ミリ対応)から10年確率降雨に対応する時間降雨量53ミリに対応出来る14000㌧の容量を確保し、貯留した雨水は大州水資源再生センターに送水後、処理できることとした。さらには、1000㌧の再利用槽を設けて、敷地内でグラウンド散水やトイレ用水として再利用できる設備を設けている。
 維持管理にも工夫が必要だった。新球場の建築と管理に影響が出ないよう、地下管廊を設けて、球場外部に維持管理用の出入り口を設置することとした。
 最大の懸案事項となったのが、与えられた施工期間1年に対する工事手法だった。直径100メートルの広範囲な基礎部の改良については地盤改良機を最大6台導入して約2カ月で完了。現場打ちコンクリートによるRC構造ではなく、型枠・支保工等の工程を大幅に削減することを目的として、貯留池内の柱・梁と床版型枠にプレキャスト部材を活用し、大幅な工期短縮を図った。加えて、水密性を確保し、雨水貯留池構造物との一体化を図るため雨水貯留地外周部を現場打ちコンクリートで構築する「現場打ち同等型プレキャスト鉄筋コンクリート構造」を採用している。
 さらにこのような取り組みに対して、コスト面での工夫も図られている。プレキャスト部材の形状統一を図るなど、コスト増を回避した。
 

新球場は局職員の誇り

 新球場の完成から7年が経ち、広島市下水道局の職員にとって夢と誇りが詰まったシンボルである。
 局幹部の中には「球場内に雨水利用の噴水を作って欲しい!」と息巻く声も。新球場は、浸水被害克服のメモリアルパークである。

 
大洲雨水貯留地