2017年5月22日

【福岡市】再度災害防止へ!博多の男たちの「戦いの軌跡」

福岡市 道路下水道局 計画部 下水道計画課
計画係長  藤原 浩幸さん
(元:博多駅地区浸水対策室 主査)

はじめに

JR博多駅 博多口 平成23年新駅ビル開業

 博多駅は,福岡を代表するターミナル駅であり,福岡空港から地下鉄で5分,福岡市役所のある天神地区とともに福岡の都心部のひとつです。地下街が発達し都市機能が集積しており,平成23年3月に九州新幹線の全線開通,新博多駅ビルが開業するなど,さらに賑わいを増しています。
 福岡市の顔とも言えるこの博多駅周辺地区は,過去,大規模な浸水被害に襲われており,福岡市では博多駅を三度浸水させないための一大ミッション「雨水整備レインボープラン博多」
に取り組みました。平成16年の対策組織(博多駅地区浸水対策室)立上げから,平成24年の概成,平成26年の組織解散までの10年に及ぶ博多の男たちの「戦いの軌跡」の一部について,クローザーの1人である私,藤原がご紹介します。

雨水整備レインボープラン博多の主なポイント

・雨水整備水準の向上・・・再度災害防止として,実績降雨79.5mm/hを対象降雨

・新たな補助制度創設・・・国等と協議を重ね「浸水被害緊急改善事業」第1号
・合わせて分流化・・・・・合流式下水道改善として,分流化も実施
・事業のスピード・・・・・2年間で公園を活用した約3万トンの調整池設置
・新組織の立上げ・・・・・ミッションに特化した組織「博多駅地区浸水対策室」
・関係部署との連係・・・・河川改修事業,周辺自治体との流出抑制への取組
計画・整備内容についてはHPをご覧下さい。↓

http://www.city.fukuoka.lg.jp/doro-gesuido/keikaku/hp/usuiseibirainbowplanhakata_1.html

 ◆事業のあゆみ

平成11年6月 博多駅を含む市内各所において甚大な浸水被害が発生。
平成13年6月 整備水準を5年確率から10年確率に引き上げ,分流化の事業認可を取得。
平成15年7月 御笠川が氾濫し、博多駅周辺地区において二度目の浸水被害が発生。
平成16年4月 「雨水整備レインボープラン博多」に事業着手。(博多駅地区浸水対策室 創設)
全国で初めて浸水被害緊急改善下水道事業の事業採択。
平成18年6月 山王雨水調整池完成。
平成19年度 御笠川河川激甚災害対策特別緊急事業完了(河川管理者である福岡県の事業)
※平成15年7月の洪水流量(890m3/秒)を安全に流すための河川改修。
平成24年6月 博多駅北ポンプ場、雨水貯留管が完成し、主要施設の全てが完成。
※雨水整備レインボープラン博多 全体事業費353億円(平成16年~平成24年)

「地下」を襲った大雨

H11.6.29 博多駅地下街浸水状況

 博多駅周辺は,平成11年と平成15年に,2度の大規模な浸水被害に襲われています。局地的な豪雨に見舞われ,駅近くを流れる御笠川が溢水したこともあり,広範囲にわたって浸水し,おびただしい数の建物が被害を受けました。
 地下空間にも雨水が流れ込み,平成11年の大雨時は,逃げ遅れた1名の方が命を落とされています。これにより,地下空間における浸水リスクについての検討が急務となりました。
 平成11年当時,地元の方へ「100年に一度の規模の雨だった」と説明していたため,平成15年には「今度はいったい何年に一度の雨や!?」とのお叱りを受けました。短期間での2度の大きな浸水被害により,各マスコミ等からも厳しい報道がなされました。市役所の内部においても,浸水対策の重要性が高まり,現在の礎を築くことができたのだと思います。博多の男たちも「三度,博多駅を浸水させない」を合言葉に戦場へと足を踏み出します。

10年確率を超える計画の立案と新たな制度創設

 全国的にも局地的な大雨が増加傾向にある中,福岡市においても10年確率を超える雨が何度も降っており,平成11年と同じ規模の雨が降ったら,このままの整備水準では耐えられんやんか!と男たちは考えます。三度目は無いとバイ!二度と浸水が許されない男たちは,こうして全国的にも例を見ない整備水準の設定について検討を始めます。
 計画立案と並行しながら,浸水対策のあり方や,新たな補助制度創設に向けて国土交通省と協議を重ねました。本省の下水道部長を始め,九州地方整備局建政部長,福岡県土木部長などをお招きした座談会も開催しております。
 男たちの思いが届き,本省のご理解と並々ならぬご尽力のおかげで,再度災害を防止するための補助事業制度「浸水被害緊急改善事業」が,全国ルールとして平成16年4月1日付で創設されることとなります。

 

新組織の立ち上げ

 男たちの思いは翌年度の組織へも及びます。スピード感を持って対策を進めていくには博多の対策に特化した組織ば作らないかんめぇもん!こうして,博多の浸水対策に特化した組織「博多駅地区浸水対策室」が立ち上げられ,計画立案した男が初代室長に就任,この男の熱い思いは対策室メンバーへと引き継がれていき,浸水対策にうるさい男たちが次々と育まれました。
 浸水対策強化・実施について市内部の機運を逃さず,男たちが動いた成果の一つだと思います。

 

事業のスピード

 男たちの戦いは事業に着手してからもまだまだ続きます。
 山王雨水調整池。レインボープラン博多の主要施設のひとつであり,浸水常襲地区でもあった山王放水路近くに位置する山王公園に整備されました。貯留量は約3万トン。工期短縮につながる技術的な検討等を重ね,計画,設計,工事までわずか2年で供用開始させました。

 

関係部署との連携

 市の下水道部署による内水対応に加えて,河川管理者や,周辺市町村とも連携を進めました。
 大規模な浸水被害の原因の一つとなった御笠川については,河川管理者である福岡県が,激特事業において平成15年7月19日の洪水量890m3/秒まで改修を行っており,平成20年に事業が完了している。
 また,御笠川流域の春日市,大野城市,太宰府市,筑紫野市,福岡市の流域5市においては,雨水流出抑制施設の導入を積極的に進めており,現在でも継続して会議等を実施するなど,御笠川への雨水の放流量を極力軽減するための取り組みを行っています。

 

戦いを挑んだ男から

 冗談めかして書かせていただきましたが,当時はシャレにならない激務だったそうです。平成15年度に計画係長,翌年度から博多駅地区浸水対策室の室長として奮闘された博多の男,柳橋先輩に当時の記憶を振り返っていただきました。


博多駅地区浸水対策室長
初代室長 柳橋 唯信

 平成11年6月29日の浸水被害があまりに大きかったことから,その後,市議会で浸水対策特別調査委員会ができるなど,本市の浸水対策のあり方を厳しく問われていました。さらに,平成15年7月19日の浸水被害は,「また浸水?しかも博多駅!?」と,復旧事業を行っていた我々にとって,かなり強烈な衝撃を受けました。
 「天災」と分かっていても,はっきりと「天災」ですと言えるものでもなく,行政マンとして,「被害の軽減に努めます。」と説明するしかないのですが,あの当時の補助制度ではやはり限界があるものでした。
 しかしながら,できる対策は徹底的にやろうということで,「博多駅周辺浸水対策緊急プロジェクト」を創設し,短期,中期,長期と対策を三段階に分け,全庁を上げて取り組むこととし,当時はこの調整に連日連夜明け暮れていました。
 また,大雨が降ったらどうなるのか?と,不安に思われていた山王地区の住民からは,いっときも早く対策を立ててほしいと強い要望があっていたので説明や協議を重ねていました。
 なかでも,山王公園の雨水調整池は,それまでの補助制度の枠を超える計画でありました。国土交通省の担当官が実情確認のため来福され,理解をしていただいたおかげで,従来の浸水対策の枠を大きく超えた新たな制度を創設していただけたことにまず感謝しなければなりません。
 早速,地元に報告するとともに,いち早く,計画・設計・実施と取り組むことができました。また,工事には,地元からも全面的な協力をもらいました。
 後日,山王地区の方々とお会いしたとき,「もう大丈夫やね」「雨の心配がのうなった(無くなった)」と言葉をもらった時,ようやく胸のつかえが取れた気がしました。
 

さいごに


平成28年7月15日 4:59

一番山笠 東流 櫛田入り

※藤原どこだ?

 博多といえば,先日,ユネスコ無形文化遺産にも登録された,夏のお祭り,博多祇園山笠。
 博多の男たちの奮闘の結果,平成24年には主要施設がすべて完成し,博多駅周辺地区での整備は概成し,浸水安全度が大きく向上しており,下水道が都市基盤の一つとして,まちの下支えをしっかりとしております。
 災害は忘れた頃にやってくる。男たち(先輩達)の「戦いの軌跡」を胸に刻み,しっかりと「魂」を引き継いで行こうと考えております。更に激甚化する気象状況等に対し,諦めず,果敢にチャレンジする風土・組織力を培っていくため,楽しく頑張っていきます!!