2017年10月23日
【神戸市】他事業との連携による都市の防災力向上
1.神戸市の地形と水害の歴史
神戸市は六甲山地(最高峰931m)から神戸港までわずか3km程度の幅の細長い低地部が市の中心であり、市街地は海岸から山麓にいたるまでほとんど切れ目なく続いています。
六甲山地から流れる河川は、いずれも1~4度の勾配をもつ急流であり、扇状地形を形成し、河口には三角州、砂州等が広がる地形です。
このような地形に発達した中心市街地は、「豪雨に伴う河川の氾濫」、「土石流による浸水被害」、「台風による高潮被害」を受けやすく、これまでにも昭和13年の「阪神大水害」を始めとした大規模な水害に見舞われ、その度毎に下水道事業、河川事業、海岸事業など複数の事業主体が連携し、水害に強いまちづくりを進めてきました。
2.浸水対策事業の経緯
本市は、昭和26年から本格的な下水道整備に着手し、一部地区を除き、分流式下水道により整備を進めてきました。これは六甲山地が風化花崗岩からなり、合流式にした場合、土砂が雨水とともに合流管に流入する危険があること、在来の水路や側溝が比較的整備されており、これを雨水排水専用に利用することで、効率的な下水道の整備が可能であったためです。
一方、昭和20年代から30年代にかけ来襲した台風により、市街地の海岸部において、大規模な浸水被害が多発し、その浸水解消を図るため防潮胸壁の整備による外水(高潮)対策を港湾部局が、雨水ポンプ場の整備による市街地の内水対策を下水道部局が受け持ち、両部局が連携しながら精力的に浸水解消に努めてきました。
3.三宮南地区の変化
本市の中心部に位置する三宮南地区は、神戸港に隣接しており、市役所を始め、官公庁や商業・業務施設などの都市機能が集積しており、港とともに発達してきました。従来、神戸港の港湾荷役機能を阻害しないために防潮堤等の遮蔽物を設置せず、建物上屋等の出入口に防潮施設を設置することで高潮に対応してきた経緯があります。また、下水道施設についても既存の水路を利用した自然流下方式での内水排除を基本としてきました。しかし、港湾エリアでの再開発や海面埋立などの都市の変化・成長により、土地利用の高度化、雨水幹線の延伸などが進み、都市の浸水リスクのポテンシャルが増大していきました。
4.平成16年の台風による浸水被害
日本各地で台風が猛威をふるった平成16年は、本市においても台風16・18・21・23号と4度に渡り来襲し、高潮と降雨による浸水被害が市内各地で発生しました。
特に広範囲にわたる浸水被害が発生したのが三宮南地区です。台風16号では、台風の接近日時が神戸港の大潮の満潮時と重なり観測史上第5位の記録的な潮位(TP+1.8m)が発生し、海岸部の海運倉庫や商業ビルへの浸水被害が発生した他、緊急避難路に位置づけられている国道2号などが7時間に渡り通行止めになるなど、都市機能が麻痺する深刻な事態を引き起こしました。【資料-1、資料-2参照】
5.浸水発生のメカニズム
浸水が発生した原因は、①防潮胸壁などの高潮対策施設が未整備であったため、海岸部から海水が市街地に流れ込んできたこと、②記録的な高潮位を記録した台風16号では、分流式で整備されている雨水幹線から海水が逆流したこと、③比較的潮位が低かった台風21号においても、外水位の上昇による雨水幹線の背水が影響し、市街地からの雨水が排除不能となり低地盤部で溢水したこと、が挙げられます。【資料-3参照】
6.連携した対策へ
この高潮による浸水被害を受けて、近畿地方整備局を始めとする関係部局と市の港湾部局、下水道部局による「神戸港における高潮対策検討会」が開催され、外水対策を受け持つ港湾部局と内水対策を受け持つ下水道部局が連携し、三宮南地区の抜本的な浸水対策に取り組むこととなりました。【資料-4参照】
7.段階的な浸水対策事業
資料-5
浸水被害解消のための大規模なポンプ場や大規模幹線の整備には多大な時間や費用が必要であり、効果発現までには長期間を要することとなるため、緊急整備事業による再度災害防止と全体計画事業を同時並行で実施することにより、段階的に浸水に対する安全度を高める整備計画を策定しました。
「緊急整備事業」は、被災した16年の台風クラスの降雨(30mm/hr)と潮位(TP+1.8m)に対応した暫定的な地下式の小規模ポンプ施設の整備や、街渠ますからの排水を自然流下系統からポンプ排水系統に切り替える改良工事を被災年度より緊急的に着手し、翌年の台風期までに整備を完了しました。
「全体計画事業」は、流域を主要な河川や道路で3分割し、港湾部局が整備する防潮胸壁などの高潮対策事業の進捗にあわせ、神戸市下水道の整備基準である10年確率降雨(49.1mm/hr)と計画高潮位(TP+2.8m)に対応する恒久的なポンプ場や雨水幹線の整備を各流域に整備をおこない、平成26年に両部局連携し、高潮対策事業、浸水対策事業が効率的に完成しました。【資料-5参照】
8.今後
近年の計画超過降雨の頻発や異常潮位の発生、都市化の進展による浸水被害ポテンシャルの増加傾向など、浸水対策に対する関心・要望はますます高くなってきています。
今後、日々の維持管理を通じ、現場で起こっている事象を敏感に捉え、他事業や市民と連携し、市全体で都市の防災力を高めていきたい。