2018年2月8日

【佐賀市】浸水対策奮闘記~市民と行政が一体となった浸水対策への取組~

佐賀市 上下水道局水循環部雨水事業対策室
主査 栗山 佳寛さん

(佐賀市建設部河川砂防課水問題対策室 室長)

 

はじめに

 

 「降れば洪水、降らねば渇水」これは、佐賀市の水事情を端的に表した言葉です。
 水田農業が盛んな平野部は広大で背後に高い山地がなく、山の保水力に期待できないため、文字通り「降らねば渇水」になることもしばしばでした。このため、古くから灌漑用水や地域環境用水を確保するための工夫を施してきました。その結果、市内には総延長約2,000kmに及ぶ水路網が張り巡らされ、潤いのある水辺空間を形成しています。
 一方、平野部の南にはムツゴロウをはじめ、魚種が豊富で、干満差が6mにも達する有明海があります。
 河川が逆流する満潮時に大雨が重なると、雨水は排水先を失い、低平な地形内で滞留し、浸水しやすくなります。これが、「降れば洪水」と言われる所以です。佐賀市は古来より高潮や洪水(浸水)の被害に悩まされてきました。
 大雨が降るたびに浸水被害の危険にさらされている佐賀市で、“浸水に強いまちづくり・人づくり”を目指している雨水事業対策室の奮闘をレポートします。

 

「浸水は毎年おこりうる」佐賀市

 

 これまでも治水事業により、浸水対策に取組んできましたが、近年の頻発する強烈な集中豪雨により、平成20年6月、平成21年7月、平成24年7月と立て続けに市街地を中心に内水氾濫による大規模な浸水被害が発生しています。
 特に梅雨期に浸水することから、以前は年配の方から「一度は浸からんば、梅雨は明けんばい」と揶揄される程でした。
 ひとたび浸水すると、広範囲、長時間にわたるため、都市機能は低下し、市民生活及び社会活動に多大な影響を与えます。早急な浸水対策は市の大きな課題となっていました。

 

効率的で効果的な浸水対策(佐賀市排水対策基本計画)

 

 そこで、「効率的で効果的な浸水対策」を旗印に市民と行政が一体となった浸水対策を立案することとしました。
 対策立案には行政関係機関のほか、学識者、一般市民、農業・漁業関係団体代表からなる委員会で検討を重ね、効果的なハード対策から、市民との協働によるソフト対策まで、総合的な観点に立った「佐賀市排水対策基本計画」を平成26年3月に策定しました。
 策定過程では、内水氾濫シミュレーションにより浸水要因及び浸水対策の検証を行い、対策単位で効果度と経済性、対策期間や難易度を考慮した上で優先度をつけ、短期・中期・長期の対策に分類しました。
 計画では長期対策完了後、確率1/10の雨量に対して、現時点の想定浸水面積(171㌶)を50%減少させることを目標としました。
 既存施設を活用した対策や雨水幹線・雨水ポンプ場整備などのハード対策を打ちたてた短期対策は平成27年2月、国土交通省の「100㎜/h安心プラン」に登録されたことにより、加速度的に進捗しています。

 

既存施設を活用した対策(広大な濠を活用)

 



 浸水箇所が散在する佐賀市なので、既存施設の能力を最大限に発揮させ、少ない投資で早期に効果発現のある対策ができないか、委員会で検討を重ねました。
 そこで、着目したのが、市の中心部に位置し佐賀城域の存在を知らしめるランドマークとなっている“お濠”です。この広大な濠を調整池として活用することにしたのです。
 その仕組みは単純で、佐賀城のお濠と城内地区を貫流する河川との合流点に堰を設けて、水の流入出を制御するようにしました。大雨時に堰を起立させ河川からお濠への流入を制限し、水位を低く保持させることで、お濠が調整池としての機能を発揮します。最大で34,000㎥の貯留容量を創出します。
 整備効果として、平成28年6月の大雨時には、お濠近隣の城内地区において、浸水継続時間(浸水深10㎝以上)を約2時間短縮することができました。
 お濠だけではなく、市街地を取り巻くように流れている農業用排水路の事前排水による水路貯留にも取組んでいます。



  

     

大雨に対してシビアな対応(出水期は送信されてくる気象情報メールに敏感。大雨注意報で参集して雨水を速やかに排除。)

 大雨が降りますと灌漑用水、地域環境用水として、それまで溜めていた水は、一転して排除する必要があります。そのため、雨が強くなる前にどれだけ内水排除できるかで、被害の大小を左右するため、施設の初動操作が非常に重要となります。
 そこで雨水事業対策室では、大雨注意報が発令されると、すぐさま庁舎に参集し、水防行動に移ります。防災部署と連携し今後の雨の動向、河川や水路の水位や映像、有明海の干満といった情報を収集し、状況を見極めながら市内各所にある水門やポンプ場等を操作します。主要な水門等の開閉は遠隔操作となっており、迅速・的確な対応が可能です。また、施設操作を委託している地元の操作人に連絡し、施設の稼動状況を確認・指示します。
 このように佐賀市では大雨時に、一刻の猶予もないシビアな対応を行うことで、被害防止・軽減に努めています。
 今後の計画として、施設機能を最大限に発揮させるため、雨水幹線上にある既存樋管などの遠方操作拡充を図っていくこととしています。

 

ハード対策(雨水ポンプ場の建設)

 


市民による石塚雨水ポンプ場施設見学の様子
(平成29年10月26日)

 ハード対策では市街地の内水排除と広域的な洪水防御を目的に、高潮時でも水路の水を河川に排水できるよう、毎秒4㌧の排水能力を備えた公共下水道石塚雨水ポンプ場を新設しました。
 事業着手は平成26年、ポンプ場の竣工は平成29年6月で、竣工式には流域下水道計画調整官にご出席いただき、慰労と更なる奮起の言葉を頂きました。平成29年7月の九州北部豪雨の際には、その能力をいかんなく発揮しました。
 右の写真は、ポンプ場から上流部の住民が参加されたポンプ場施設見学の様子です。雨水ポンプ場の構造や排水状況及び浸水対策に理解を深めていただきました。

 

市民との情報共有(浸水標尺の活用)

 

 地域の浸水状況の把握と次期対策検討のためのデータ蓄積を目的に、市内の浸水常襲地区を中心に77基の浸水標尺を設置しました。
 浸水時に標尺の水深を計測することで、地域の浸水状況の把握が可能となりました。計測は、市民やボランティア団体等にも協力をお願いしており、浸水に対する市民の意識の向上に繋がっています。
 市民からは「(大雨で)いざという時、近所の水路の排水状況を知ることができる標尺です。きちんとした理解が肝要ですね」との意見がよせられました。

 

市民の力(市民による河川・水路の清掃活動)

 

 行政による排水対策を進める一方、浸水被害の軽減に大きく寄与している市民活動があります。それは35年以上続く、春と秋の「川を愛する週間」における市民総参加の河川・水路の清掃活動です。現在、自治会をはじめとし、事業所(企業等)や教育機関など、たくさんの方々が参加して、身近な川や水路を清掃しています。行政では広報や道具の貸出、流水阻害となるごみや水草、浚渫土などの搬出・処分といった役割を担っています。年間の参加人数は延べ10万人に上り、期間中に排出される浚渫土だけでも約1600㎥にも及び、河川・水路の排水機能の維持・向上につながっています。


さいごに(ハード面+ソフト面での“まちづくり”)

 佐賀市の河川・水路清掃の特徴は、全市的な規模で、市民が主体となって取組まれ、そこにたくさんの市民が参加していること、そして、市民が河川・水路の清掃を行う一方で、行政は清掃活動のサポートをしっかりと行い、市民と行政が一体となって取組んでいるところです。全国に誇れる佐賀市の“まちづくり”の原点とも言える取組みであると思います。
 水路網が発達した低平地である佐賀市において、浸水に対して絶対的な解決策はありません。ハード面での“まちづくり”に加えて、市民の河川・水路清掃活動に代表されるソフト面での“まちづくり”を推進し、更なる浸水被害の軽減に邁進していきたいと思います。